邪神の呪いと推薦状:1st SHOT
こんばんわ、れらです(’▽’)ノ
さて、本日のOblivion。

ゴメスさんは重い足取りでブルマの街を歩いていた。
シロディールの最北に位置するこの街の住人は、ノードと呼ばれる北方人が大半を占める。
歴史書によれば帝国に対して戦を仕掛けたこともあるという気骨のある人種族だが、それも今では昔の話。彼らの故郷であるスカイリムは、現代では圧倒的な武力を誇る帝国に領土の一部を明け渡し、現在のブルマがある。
街に残り、帝国に属することとなった北方人は、他種族と交わることをあまり好まない傾向にあるものの無口で大人しく、現在のブルマは静かで平和だ。
また、年中雪で覆われている厳しい気候も相まってか、他の街と比べると領地を巡回する帝国兵の数は圧倒的に少なく、領地の治安は主に中央から派遣された帝国人の伯爵夫人に一任されている。
彼女には一応と帝国人からなる衛兵団が預けられてはいるのだけれど、遺物にしか興味の無い伯爵夫人が気にしているのは自身が持つ膨大な遺物コレクションの無事だけで、衛兵の多くは城内に配置されている。
だから盗賊ギルドのアジトを置くには打って付けの街なのだけれど、それもいつまでもつだろう・・・とゴメスさんは暗い考えに耽っていた。

ギルドの連絡係が息せき切ってスキングラッドの屋敷に飛び込んで来たのは、夕刻のことだった。
慌てふためく彼女に対し、落ち着いて事情を話すよう促したゴメスさんだったのだけれど、連絡係は「急いでゴメス先輩を連れてくるよう言われただけ」と要領を得ない説明を繰り返すばかり。
新人ギルド員だから仕方のないこととはいえ、他に何の情報も持たせないなんてアーマンドもアーマンドだ。
そんなわけで、今夜のメインにと前日からニンニク漬けにしておいた鹿肉を、文句たらたらなテラに任せて、こうしてブルマまで出向くことになったのだけれど・・・

いや、させる気か
=3・・・とゴメスさんは溜息を零す。
天下の大盗賊との付き合いは、実に幼少の頃から続いていたりするのだけれど、最近のグレイ・フォックスはどうもおかしい。
義賊の名に恥じぬよう、私的な盗みを一切許さなかった彼が、私用で部下に窃盗をさせているのだ・・・・それも何度も。
自らにかけられた呪いを解く為という事情を鑑みれば、それも仕方のないことだと当初は納得していたゴメスさんだったが、グレイ・フォックスが与える個人的な指令の内容は、ここのところエスカレートするばかりだ。
レィヤウィーンの城に忍び込んで指輪を盗って来いだとか、スキングラッド城から本を盗んで来いだとか・・・・盗賊のターゲットとしては最も警備が厳重で、難易度の高い場所ばかりを選んではギルド員を送り込み、先日はとうとう死者が出た。
ゴメス「そろそろ止める必要があるかもしれんな
」
住宅街の一角で足を止め、暗い気持ちで一軒の民家を見上げながら、ゴメスさんは唇を噛んだ。
北方建築独特のログハウス。何の変哲も無いブルマの規格通りの建物が、盗賊ギルドの本部だ。
ゴメスさんは周囲に巡回の衛兵がいないことを確認すると、陰鬱な気持ちを抱えたまま、おとぎ話に出てきそうな可愛らしい建物に入っていった。
すると・・・

男性二人が言い争う声が階下から響いてきた。
ギルド幹部で主に人事を担当しているアーマンドと、首領のグレイ・フォックスだ。
ゴメスさんはげんなりと肩を落として、足早に階段を下りて行く。
そして・・・

地下室に辿り着いたところで、ムサいオッサン二人に助けを求められ、陰鬱な気分は更にげんなりになった。
ゴメス「いいから声を落とせ。巡回の衛兵に聞かれでもしたら、どうするつもりだ?」
一応と防音を兼ねて、何かとうるさい首領の部屋に地下室をあてがっているのだけれど、それにしたって大の大人が騒ぎ過ぎだ。
ゴメス「今度は一体何なんだ?
」
二人のオッサンがようやく口をつぐんだところで、ゴメスさんは冷静に説明を促した。
が、その内容を聞いた途端・・・

今度はゴメスさんの方が、思わず声を上げてしまった。
アーマンドの説明によると、我が侭な首領が今度は帝都からレックスを追い出せとの指令を下したというのだ。
レックスと言えば、グレイ・フォックスの逮捕及び盗賊ギルドの撲滅に全人生を賭けている、鬼の帝都警備隊長のことである。
そのやり方は強引かつ過激で、盗賊ギルドが公然と庇護しているスラムの住人に不当な税金を課したり、兵糧攻めにしたりと容赦の無い圧力をかけてきた。
けれど・・・

それどころか、今やスラムには寄り付きもしないと監視役から報告を受けている、とゴメスさんは懐疑的な視線をグレイ・フォックスに投げかけた。
それはグレイ・フォックスをおびき出す為に、レックスがスラム擁する港地区を全面封鎖した時のことだ。
アークメイジである家主と仲間達に応援を要請し、魔術師ギルドの影のドンと幹部様が仕掛けた召喚獣に恐怖を植えつけられたレックスは、それ以降すっかり大人しくなってしまい、盗賊ギルド関連の事件には一切手を付けていないのだ。
アーマンド「だろう?それを何で今更、突っつく必要があるって言うんだよなぁ?
」
ゴメスさんの意見が自分の意見と合致していることに心底ホッとしながら、アーマンドも深く頷いた。
実際、平穏な生活を取り戻せたとスラムの住人達は喜んでいるし、帝都での仕事も随分し易くなったとギルド員達も安堵している今日この頃だ。

盗賊と言えば警察組織、すなわち帝国兵とは対立するものだと思われがちだけれど、重要なのは対立を避けることにある。
盗賊ギルドは戦士ギルドや魔術師ギルドとは違い、戦闘のプロでもなんでもない、盗むことに特化した集団なのだ。
もちろん万が一に備えて、ギルド員は皆ある程度は武器を扱えるし、中には双子猫のように優れた剣技をもっていたり、マジカを操れる者もいる。
しかし職務の性格上、その手の能力は使わないに越したことはないんである。
だから帝国兵とは金で折り合いが付けられるように根回しをしてきたし、今では万が一の殺人罪ですら、金で揉み消せるまでに地盤を広げた。
グレイ・フォックスに対するレックスの執念だけは金の力ではどうにもならなかったけれど、それもようやく解決したのだ。
今こそ暗い世情に困窮している人達の手助けをするという、義賊にとっては理想的な環境が整ったはずなのに・・・

グレイ・フォックスときたら、レックスを帝都から追い出すことをしつこく主張し、微塵も引く様子を見せない。
そんな首領とアーマンドの不毛なやり取りを険しい表情で見つめていたゴメスさんは、ギルドを守ろうと必死に首領を諭している幹部の肩を徐に叩いた。

てっきり自分と一緒にグレイ・フォックスを説き伏せてくれると思っていた頼もしい味方から、引くよう指示されて、アーマンドはキョトンと目を丸めた。
我が侭中年のグレイ・フォックスを説き伏せられるのは、右腕を務めるゴメスさんを置いて他にいないが、同時に彼は盗賊とは思えない寛大な精神を持っている。
その優しさを首領に度々利用されちゃったりするものだから、アーマンドは立会いを強く主張しようとしたが、いつもは穏やかなゴメスさんの双眸が、いつになく険しい光を湛えていることに気付いて、仕方なく踵を返し、階段を登って行った。
途中、何度か後ろ髪を引かれて振り返りはしたものの、結局は大人しく上階へ引き下がったアーマンドの足音が聞こえなくなるのを確認すると、ゴメスさんは溜息をついてグレイ・フォックスに向き直った。

ゴメス「レックスを追い出したい理由だよ
奴を上手く帝都から追い出すことが出来れば問題ないだろうが・・・もしも
失敗したら、せっかく大人しくなってくれた獅子を起こすことになる」
そもそもレックスが盗賊ギルドに対して抱いていた怨念とも言うべき執着は、彼がグレイ・フォックスに面子を潰されたことに端を発しているのだ。
その元凶の手によって再び立場を貶められようものなら、今度はどれほど非情な手段を使ってくるか分かったもんじゃない。
ゴメス「前回お前が与えた任務では、優秀な部下を一人失った。
今度のお前の作戦は、失敗すれば部下もスラムの住人達も、これまで以上に
追い詰められることになる・・・」

ゴメスさんが正論を口にした途端、グレイ・フォックスは不貞腐れたように口を真一文字に結び、押し黙ってしまった。
その様子は、とても己の言動を省みているようには見えなくて、余計にゴメスさんをイライラさせる。
義を掲げているはずの盗賊ギルドの首領は、今や自分の為だけに、仲間の命も平然と危険に晒す道へと足を踏み込んでいる。
そして、その先にあるものは・・・

危険な仕事の先にある核心を引き出そうと更に一歩を踏み込むと、鼠色のマスクから僅かに覗く顔が明らかに強ばった。
ゴメス「その必要も無くなったのに、今更レックスを帝都から追い出したいのは、帝都に
何か目的があるからだろう?」
ゴメスさんに厳しい視線を向けられると、グレイ・フォックスは何かを言いかけ、そして口ごもった。
両脇に垂らした両手をきつく握り締め、それをじっと凝視するその様子は明らかにおかしい。
グレイの拳が僅かに震えているのを怪訝そうに見遣りながら、ゴメスさんは尚も続けた。
ゴメス「大方マスクの呪いを解く為なんだろうが・・・正直言って、やり過ぎじゃないか?
」
途端にグレイの拳の震えが大きくなった。
機嫌を損ねたか?と感じて、誤解を与えないよう、若干声のトーンを和らげるように意識して、ゴメスさんは更に説得を続ける。
ゴメス「俺もお前の呪いは解いてやりたいし、家族にも再会させてやりたいと思っているんだ。
だが、ギルドのこともある。そこで考えたんだが・・・」

スキングラッドの別邸で共に居候生活をしているルゥさんは、性格はどうあれ魔術においては天才だ。
以前グレイが偽物だと大騒ぎした指輪の本質も鑑定してくれた彼なら、何か良策を見出してくれるかもしれない。
そう思って進言した途端、グレイ・フォックスは動いた。

虚ろな眼差しがギョロリとゴメスさんの姿を捉え、震えていた拳が腰に携えていた短剣を抜く。
そして・・・

抑揚のない言葉を吐くと同時に、グレイ・フォックスは躊躇なく刃を振り上げた。
つづきます