錬金素材と砦のワイン:Act5
こんばんわ、れらです(’▽’)ノ
さて、本日のOblivion。

ヒヨさんは、鍵のかかったチェストと睨めっこをしていた。
はぐれた場所でハルが見つけたという、砦に放置されていた古い木箱だ。
シロディールが戦場だった当時のものなら、希少な銘酒シャドウバニッシュワインが入っているかもしれない。
ワクワクしながら鍵穴を覗き込み、開錠の難易度を確認する。
そして、ポケットから古い開錠器具を取り出すと、先端を鍵穴に押し込んだ。
金属が擦れる音だけを頼りに、鉤状になっている先端の位置をずらしながら、内部の金具を固定していく。
程なくして、鍵は外れた。

残念なことに箱の中身は古い薬のアンプルと、コインが数枚入っていただけだった。
毎度思うが、こんな物を保管するために、わざわざ施錠するなんて・・・昔のシロディールはどれだけ物騒だったんだろうか?
まぁ、今でも十分すぎるくらい物騒なわけだが。
正直、これなら空の木箱の方がよほど価値があるに違いない・・・と思いながら、ヒヨさんはしょんぼりと木箱の蓋を閉じた。

手にしていた開錠器具をポケットにしまおうとした瞬間、唐突に声をかけられて、ヒヨさんは手を止めた。
そして・・・

普通の開錠器具とは違うから物珍しいのだろうと思ったヒヨさんは、快く鍵を差し出した。
ヒヨ「ディードラの神様に貰った物で、ロックピックとは違って絶対に壊れない
不思議なピックなんです。
冒険の必須アイテムだから、あげることは出来ないですけど・・・
見るだけなら、いくらでも
」
ラグナ「ということは、君は肌身離さずこれを持ち歩いているわけだ」
彼女の言葉に頷きながら、ラグナは「なるほど・・・」と納得した。
邪神の言葉を信じるなんて、呆れるくらい純粋な娘だ。
その上、こうして他人に易々と見せてしまうのだから、気が遠くなるくらいのお人好し。
もしも、この場にいるのが自分ではなく、ブルマの伯爵夫人だったなら、あらゆる手を尽くして我が物にしようとするだろうし、ディードラ研究に生涯を注いでいる無所属の魔術師だった日には、その場で殺され、奪われているところだろう。
だからノクターナルにも、簡単に騙される。
ラグナ(鍵を見せた相手が俺で、君は運がいい)
心の中でそう呟くと、ラグナは古い開錠器具を、そっと指先でつまみ上げた。
刹那・・・

冷たい金属に触れた瞬間、天と地が逆さになったような錯覚に襲われた。
胃がせり上がり、そこから吐き気が込み上げてくる。
同時に、激しい耳鳴りが鼓膜の内側を打ちつけてくるが、ラグナは平常心を手放さぬよう努めた。
ピックを持つ手が、燃えるように熱い。
だけど、それは錯覚だ。
だから大丈夫。
肝心なのは、意識を決して明け渡さないことだ。
強力なディードラとの接触法を何度も自分に言い聞かせ、ラグナは嵐が過ぎ去るのを待つように心を鎮めた。
すると、程なくして頭の中を支配していた耳鳴りはトーンを揃え、人の声に変わっていった。
それは複数の女の囁き声だ。幾重にも折り重なって、同じ言葉を発している。

『我の元に・・・赤毛の小童を使わ・・せたのは・・・お前か』
ノイズ交じりの声が、静かな怒りに震えながら、ラグナに問う。
頭の中で鳴り響く、自分にしか聞こえない不気味な声だ。
常人なら耐え難いほどに醜い響きだったが、ラグナは唇の端を上げて微笑む。
ノクターナルだ。
しかも、こちらのことは完全には視えていなかったらしい。
邪神の眼差しすら遮る古の塔、インペリアルパレスの特殊な造りに感謝しつつ、ラグナは一定の呼吸を保とうと努める。
『お前は・・・何故、我が下僕に触れた?』
返事が無いことに苛立っているのか、声は危険な響きで囁いた。
けれど、ラグナは答えない。
『我が下僕に手を出すな!』
ラグナ『それは、契約か?』
募る苛立ちを吐き出すように、ノクターナルが怒鳴り声を上げると、ラグナは初めて夜の女王の問いかけに応えた。
途端に邪神は声を詰まらせる。
ラグナ『どうした?貴様が代償を払うつもりなら、応じてやるが?』
言いながら、鍵を持つ手に力を込める。
もちろんそんなことで、邪神のマジカから創られた鍵を壊せるわけはないが、こちらの意図は伝わるはずだ。
すると、派手な女の笑い声が、頭の中に荒れ狂った。
『我と対等になったつもりか?
我が一言囁けば、我が下僕はお前の指を斬り落とすだろう』
身も凍るようなおぞましい笑い声だったが、ラグナは平常心を保ち続ける。
ラグナ『つまり貴様は、彼女に嘘の代償を与えたということか?』
皮肉っぽく言ってやると、笑い声はピタリと止んだ。
その機を逃さず畳み掛ける。
ラグナ『教えてやろう、ノクターナル。赤毛の男を使わせたのは俺だ。
彼の問いに、お前はこう答えた「神は契約を偽らぬ」と。
他のディードリック・プリンスは正当な代償を支払ったっていうのに、未練がましく
遺物を手放していないのは、貴様だけだぞ?ノクターナル。
そんなことだから、この世界の住人の信用を得られないんじゃないのか?』
最後の言葉を囁いた瞬間、指先に強烈な痛みが走った。
思わず声を上げそうになるラグナだったが、奥歯でなんとか噛み殺し、邪神の声だけは聞き逃さぬよう、必死で神経を集中する。
その間にも、怒り狂ったノクターナルの怒声が頭の中を浸食していく。
『我は夜を司る神!神は契約に偽りを持ち込まぬ!我は正当な代償を払った!
その娘に才を与えてやった!!』

思わず口にした途端、頭の中で吹き荒れていた嵐が唐突に止み、現実の音が蘇ってきた。

ハッとして我に返ると、もうノクターナルの気配はない。
指に赤く痕が付くほど、きつく握り締めていた鍵は、完全に沈黙した。
ラグナは何とか笑顔を取り繕って、ヒヨさんにそれを返すと、何気ない調子で訊ねる。
ラグナ「ノクターナルから貰った報酬はそれだけ?」
ヒヨ「いいえ、他に盗賊スキルを上げてくれたんです
」
それも40も
!と無邪気に微笑まれた瞬間、ラグナはやられたと思った。そっちが本物の代償だ。
スケルトンキーは、契約とは何ら関係なく彼女にもたらされた物だ。だから、ノクターナルは自らのマジカから生み出したそれとの繋がりを切っていない。
ハルの問いには、鍵のことしか答えていなかったようだけれど、それは恐らく質問が簡潔ではなかったからだろう。
この世界の神はプライドが高い。それ故、神は契約に偽りを持ち込まないが、狡猾で貪欲だ。
だから、彼らとの取引には細心の注意が必要になる。

立ち上がって唐突に宣言すると、ラグナはスタスタと出口に向かって歩き出した。
ハルが慌ててその後を追う。

今日はこれでお開きということだろうか?
急用があるのなら仕方ないけれど、なにやら随分と緊迫している様子だったから、声をかけるタイミングを逸して、残された二人は、ぽかーんと彼らの後姿を見送った。
その姿が見えなくなり、足音もやがて聞こえなくなると、何かを思い出したようにカイルがヒヨさんに向き直る。

家主の顔色を伺っては視線を逸らし、口から出る言葉は何だかとても歯切れが悪い。
一体どうしたことだろう?とヒヨさんが首をかしげていると、カイルは大きく息を吸い込んだ。
そして・・・

ラグナの言葉を聞いた時は、つい乱暴なことを言ってしまったけれど、過去の記憶がないせいで、彼女は色々と苦労してきたと聞く。
山賊、盗賊、詐欺師に魔物、それと物乞いが溢れる物騒なシロディールにおいて、何もないところから家を持ち、定職に付くだけでも大変だろうに、記憶がないせいで、彼女はこの世界で生き抜く知恵すら持っていなかったのだ。
それは未だに彼女の足を引っ張っていて、例えば先代のアークメイジに後継者として指名されたにも拘わらず、未だにお飾りとしか見なされていなかったり、貧乏だったりする。
もしも過去の記憶が戻ったら・・・魔法の才を持って生まれた彼女のこと、もしかしたらアークメイジに相応しい力を取り戻せるかもしれないし、ひょっとしたらどこかの富豪の娘ということもあり得なくはない。

協力してやってもいい。
たった一言で彼女の人生を変えてやれるかもしれないのに、どうしても言い出せない。
家主が持つ2年という記憶のページと、それ以前に流れる長い時とを比べると、自分たち居候が記されている部分は、薄っぺらく感じてしまうから。
しばらく、気まずい沈黙が流れた。
何かを言い出そうとしては口を閉ざすことを繰り返すカイルを、ヒヨさんはただただぽかーんと見つめるばかり。
そうしているうちに、ようやく何かを察したのか、ヒヨさんはハッとして頭を振った。

そう言ってニッコリと微笑んで見せる。

何せ、苦労して15000Gも貯めて買った大邸宅(ヒヨコにとっては)なのだ!と家主は、大袈裟に胸を張る。
それは、もしかすると、眉間に皺を寄せまくっている居候に対する気遣いかもしれなかった。
けれど・・・

彼女の答えに、カイルは内心ホッとした。
なにせ、ヘタレだろうが、愚鈍だろうが、バカが付くほどのお人好しだろうが、っていうか実際バカだろうが、彼女は一応家主なのだ。
まぁ、そのうちメイドにしてやろうと思っていたりするカイルなのだけれど、主がいなければ家も無い。
だから、この安堵感は、とりあえず今後も家を失う心配はなくなったことに対するものだろう。
貧乏な彼女とは違って、家なら2つや3つ買えるほどの財があろうとも、あの家が気に入っているのだから仕方がない、と誰に聞かれたわけでもないのに、カイルは一人うんうんと納得した。
そして・・・

てっきりそのまま家路に着くものだと思っていたカイルは、家主の提案に顔をしかめた。
この砦の敵は一掃してしまったし、大好きな斧を振る用事はもう残っていない。
それなのに、暗い砦を再度回ってキノコ集めだなんて・・・
ヒヨ「本当は、今日は一日街道沿いで素材採取する予定だったんだよ?
それが砦に入ることになっちゃったんだもん
」
予定していた量にはまだ足りない!と豪語され、カイルはげんなりと肩を落とした。
幸い、長年放置されていた砦は、湿気でいっぱい・・・白いキノコがあちこちでわんさと生えている。
敵がいなくなった砦の奥へと、スキップを踏みながら戻っていく家主の後姿を見つめてカイルは思った。
やっぱり彼女の記憶をきちんと戻し、常人ならキノコなんて主食にはしないということを、思い出させるべきじゃないだろうか?と。


帝都に到着し、インペリアルパレスに向かって足早に歩を進めるラグナの後を、ハルは文句たらたらで追いかけていた。
ハル「覗きババァの遺物を奪う、絶好のチャンスだったじゃーん
」
それなのに、みすみす返してしまうだなんて、どうかしてる。
なにせ、彼女を執政に立てたがっている元老院にとって、スキャンダルはご法度だ。
その元凶とも言える代物を、アークメイジから引き離す絶好のチャンスをふいにしたのだから、まったく何を考えているのやら。
空腹の腹を摩りながら、ハルが再び毒づくと、ラグナはようやく足を止めた。

ハルは思わず絶句した。
遺物は創り主の一部と繋がっているという。
目の存在は既に確認しているから、てっきり手とか足辺りかを想像していたハルなのだけれど、現実はそれ以上に悪かった。
ディードラの言葉は毒と同じ・・・それに口なら呪文だって発動させることが出来る。
ラグナ「たとえあの場で奪ったとしても、ノクターナルが彼女を駒に定めたのなら
必ず彼女の手元に戻るだろう?
」
魔法の発動が可能なら、容易いことだ。
それに・・・

奥深い(?)事情もあったりする。
やはり彼女の凹んだ顔が好き、という嗜好が難しいんだろうか・・・
とか何とか明後日なことを、真顔で呟くラグナの様子を見て、ハルは呆れたように頭を振った。

それは癪だと顔をしかめるハルは、先日ノクターナルから雷を落とされたばかりだ。
夜の女王だか何だか知らないが、そんな感じの悪い相手に、易々と望みの品を献上するなんて面白くない。
するとラグナは苦笑しながら、頭上に聳える灰色の塔を見上げた。
ラグナ「残念ながら、そう簡単にはいかないかな」
ハル「餌が何だか分からないってことー
」
ラグナ「いいや、それは分かってる」
だからこそ、少々ややこしい問題があるのだ、とラグナは憂鬱そうに溜息をついた。

インペリアルパレスの上層は、皇族専用のエリアになっていて、パレスの職員であっても厳重に立入りを制限される神秘の場所だ。
噂によれば、魔術師ギルドにも秘密で魔術の研究をしているらしく、怪しい僧侶なんかが出入りをしている。
パレスの宮廷魔術師を務めるラグナには、本来入室が許可されるはずなのだけれど、皇族が暗殺されて以降、元老院に雇われた故にその権利を与えられていない。
何故なら、元老院の老人達ですら、立入りを許されていないからだ。

赤毛の同志に問題点を指摘され、ラグナは深い溜息をついた。
潜入するだけなら何とかなるだろうが、あそこには盲目の僧侶が出入りしている。
彼らは、ブレードから賜ったアカヴィリの剣を持っている。
つまり、目は見えなくても別の感覚で難なく剣を扱えるということだ。そういう輩は、マジカの流れにも敏感なことが多い。
それに、魔法を控えて、透明化薬に頼ったとしても・・・
ラグナ「彼女は、あの時、餌を持っていなかった・・・」
ノクターナルの遺物がもたらす『偶然』に導かれ、アークメイジは一度インペリアルパレスに忍び込んでいる。
遺物に取り憑かれている者なら、主人が欲する物の目の前まで到達していたはずだ。
それなのに、彼女を抱きすくめた時、チェックした鞄には、銀食器等のがらくたしか入っていなかった。
つまり、餌はノクターナルが与えた鍵をもってしても開けられない場所にあるということだ。
だから、遺物と主人の『縁』は切られず、今もアークメイジとグレイ・フォックスを同じ目的に縛り付けている。

それは恐らくブレードが持っているのだろう。
敵の動きには過敏な元老院なら、ともするとその在り処くらいは知っているかもしれない。
どちらにせよ、元老院には報告する必要がある。
ラグナ「とにかく、話してみるしかないか
=3」
最終的な目的はアークメイジそのものだとしても、ノクターナルを放置しておくのは危険だ。
何故なら彼女は『アレ』を持っているから━━━もしもノクターナルが、そのことに気付いたら、必ずや手に入れたいと思うに違いないからだ。
ラグナは覚悟を決めて、パレスへの階段に足をかけた。
ハル「爺さん方、機嫌よければいいけどねー
」
大凡そんなことはありえないというように、背後でハルが大仰な溜息をつく。
すると・・・

不意にパレスの扉が開いて、エリート兵が飛び出して来た。
兵士「良かった。これから探しに出ようと思っていたところです!」
ラグナ「俺を?何かあったのか?
」
切羽詰った様子でまくし立てられ、ラグナは眉を顰めた。
どうやらあまり、良い知らせではないらしい。

怯えたように話す兵士の顔を見れば、それがただ事ではないと分かる。
ラグナは気分が落ち込んでいくのを感じながら、兵士の肩を叩いて了解の意思を告げると、上司が待つ議事堂へと向かった。
つづきます